二本指

えー、惚れて惚れて、惚れぬいたご亭主を残しまして、あの世へ行っちまったおかみさんがございましてナ、こうなると未練が残ります、浮ばれない。
夜な夜な亡霊となって亭主のところへ現われまして、
「あアら、うらめしやァ・・・」
「うわーッ、また出たァ、もういいかげんにしてくれ。夜もねられない」
「だっておまえさん、あたしゃネ、おまえさんがあたしの死んだのをいいことに、どっかで浮気をしてるんじゃないかと、それが心配で心配で、浮ばれないんだよ・・・」
「バカだな、おめえは・・・。死んでまで、どうしてそう、疑ぐりぶけえんだ。おれが、そんな浮気なんか、するわけがねえじゃねえか・・・」
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「そんな、口だけで信じられるなら、迷って出やアしないヨ。うらめしイ・・・」
「うわーッ、やめてくれったら。えー、そんなに信用しねえのなら、おまえが死んだあとは、どうせ不用のもんだ、ホラよ、こいつを渡してやらア・・・」
てンで思いきりのいい亭主でございます。男の一物スパーッと切りまして亡霊に渡す。
これにはさすがのおかみさんの亡霊も、すっかり喜んで帰って行く。
あくる晩になりますと、
「うらめしやア・・・」
「うわーッ、また出やがった。なんだってンだよ、ゆうべ、男の大事な道具まで渡したのに・・・」
「まだ、心残りがするんだよ、うらめしい・・・」
「まだ心残りが?この上、何がほしいんだ?」
「あー、あと、右手の指が二本ほしい・・・」
笑い話 艶笑落語 『宿屋ぼぼ』 につづく
公開日:
最終更新日:2018/08/12