腹の内

さる所の生まれ子、生まるるよりすぐに、大人のように、いろいろなことを言うゆえ、めずらしがり、人が集まりて話をするうち、一人が子に向かいて、
「腹のうちにいたときのことも、おぼえがあるだろう。どのような心持であった」
と問えば、かの子が言うには、
「腹のうちは八、九月ごろのようだ」
「そりゃ、どうして」
「ちょうど、あつくもなく、寒くもなし、そうしておりおり下から松茸がはえる」
「うちの前に共同便所が立ちました。それはいいのですが、うちの窓から見ますと、中がまる見えなのです。あれでは風紀を乱すおそれがあります。ぜひ、見えないように囲いをしてください」とのこと。
まことにとうぜんの抗議なので、市役所では、さっそく、大工をやって修繕させることにしました。
しかし、そのまえに、いったい、どのくらいの程度、まる見えなのか、一応、女史の窓から検査してみようと、大工が窓に立ってみると、なんのことだ、共同便所の中はぜんぜん見えやしない。
変なことだ・・・と、思って、理由をたずねると、女史は、すこしもさわがず、一隅から机とイスとを持ってきて、かさね、その上にのり、
「こうして見ますと、それこそ、まる見えなのです・・・・」
「腹のうちにいたときのことも、おぼえがあるだろう。どのような心持であった」
と問えば、かの子が言うには、
「腹のうちは八、九月ごろのようだ」
「そりゃ、どうして」
「ちょうど、あつくもなく、寒くもなし、そうしておりおり下から松茸がはえる」
江戸小咄
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オールド・ミス
町で評判のオールド・ミスのオルガ女史、ある日、血相を変えて、市役所へとびこんできて、「うちの前に共同便所が立ちました。それはいいのですが、うちの窓から見ますと、中がまる見えなのです。あれでは風紀を乱すおそれがあります。ぜひ、見えないように囲いをしてください」とのこと。
まことにとうぜんの抗議なので、市役所では、さっそく、大工をやって修繕させることにしました。
しかし、そのまえに、いったい、どのくらいの程度、まる見えなのか、一応、女史の窓から検査してみようと、大工が窓に立ってみると、なんのことだ、共同便所の中はぜんぜん見えやしない。
変なことだ・・・と、思って、理由をたずねると、女史は、すこしもさわがず、一隅から机とイスとを持ってきて、かさね、その上にのり、
「こうして見ますと、それこそ、まる見えなのです・・・・」
西洋小咄
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公開日:
最終更新日:2018/08/12