念入りに

五つになる子供をつれて、ある百姓が、町の市場へ牛を買いに出かけました。
市場につないである牛を、彼は一頭ずつ、念入りにしらべました。
手で、牛の背中をなで、毛並みのぐあいをみたり、横腹のあたりをつまんで、肉づきのよさをためしたり、乳をこちょこちょとやって、精がついているかどうかを、見たりしました。
「お父ちゃん、いちいちどうして、そんなことするの?」
「そりゃ、おまえ、物を買うときには、すみからすみまで、念を入れてしらべてみないことには、とんだクズものをつかまされては、こっちの損だものな。おまえも、ようくおぼえておきな」
子供は、だまって返事をしませんでした。
しばらくして、子供は、何か確信でも持ったかのように、父親にむかって、いいました。「お父ちゃん、うちのお母ちゃん、もう、ずっと前から売りに出されているんだね」
「まさか、人間が売り出されるなんて、そんなバカな・・・どうして、また、そんなことをきくの?」
「だって、こないだ、近所のおじさんが、お母ちゃんを、とっても念入りにしらべていたよ」
市場につないである牛を、彼は一頭ずつ、念入りにしらべました。
手で、牛の背中をなで、毛並みのぐあいをみたり、横腹のあたりをつまんで、肉づきのよさをためしたり、乳をこちょこちょとやって、精がついているかどうかを、見たりしました。
「お父ちゃん、いちいちどうして、そんなことするの?」
「そりゃ、おまえ、物を買うときには、すみからすみまで、念を入れてしらべてみないことには、とんだクズものをつかまされては、こっちの損だものな。おまえも、ようくおぼえておきな」
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子供は、だまって返事をしませんでした。
しばらくして、子供は、何か確信でも持ったかのように、父親にむかって、いいました。「お父ちゃん、うちのお母ちゃん、もう、ずっと前から売りに出されているんだね」

「だって、こないだ、近所のおじさんが、お母ちゃんを、とっても念入りにしらべていたよ」
西洋風流小咄集 より
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公開日:
最終更新日:2018/08/12