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松茸3




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 秋の山ってのも、紅葉の間はきれいなんですがネ、こいつ、葉っぱがみんな落ちっちまうてェと、風通しがよくなりましてネ、ピューッと、秋風が吹きっとおる、柿の木と栗の木が、枝をこう、ちぢこまらしちゃって、

柿「おう、栗ィ・・・」
栗「なんだい、柿ィ・・・」
柿「寒いなア、えッ」
栗「あア、こんな日は、たまらねえナ」
柿「たまらねえッたって、おめえはいいよ、なア、うらやましいや」
栗「どうして?」
柿「どうしてって、そうじゃねえか。おめえは、まず、一番下に、渋皮(しぶ)だろ?その上に固(かて)え皮があって、そいからイガだ・・・なア、三枚も着物ォ着てやがる。そこへ行くと、おれなんざ、うすッ皮一めえだ。合わねえや、全くゥ・・・。一枚ぬいで、おれにまわせ」

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栗「何ォいってやがンだ、このカキゃァ!つやつやしたいい血色しやがって。おれなんざ、皮むいてみろ、青白い肌ァしてふるえてンだ・・・」
柿「色ァ関係ねえじゃねえか。イガだけでもいいからよ、よオ、貸してくりィ」
栗「そうはイガねえや、これ、貸しちまったら、先祖に対して申しわけねえ」
柿「何もこんなときィ先祖のことなんぞ、持ち出さなくてもいいじゃねえか」
栗「だってそうじゃねえか。この三枚の着物はナ、先祖が苦心してこしらえて、伝えてくれたもんなんだ。てめえが、うすッ皮一枚でやりきれねえとかなンとかいうのなら、そりゃ、先祖がいくじがねえからだよ。あきらめナ」

柿「何をォ・・・ヤイヤイ、先祖のことまで持ち出しゃァがったナ。言うにことォかいて、ご先祖さまのことまでコキおろされちゃ、了簡(りょうけん)ができねえんだ。このあまぐり野郎、目のクリ玉クリぬくぞ!コンチクショウ!」
栗「来るか、このカキィ!来たら、カキむしるぞ・・・」



 てンで、ケンカになる。
 柿がまッ赤になってパーッととびつくと、栗がこの、イガを逆だてましてネ、
「野郎!」「チクショウ」

 とやってるところへ、ちょうどわきの松の根元から松茸が顔を出して、
松茸「チェッ、うるせえやつらだなア、昼寝も、ロクスッポできやしねえや。おい、柿に栗、おめえたちァ、キはたしかか、ほんとにィ。みろ、あそこで、アケビが笑ってらア。くだらねえことでケンカして、傷でも負ってみろ、いい材木になれねえぞ、もう・・・」

栗「いやア、そう言われると、めんぼくねえが、この柿の野郎がネ、あンまり根も葉もねえことに言いがかりをつけやがるからネ」
柿「いや、そうじゃねえ、栗の野郎の言い草に、トゲがあるからよォ・・・」
松「ま、ま、まァ、マッタケ、マッタケ・・・。両方一ぺんに言っちゃわからねえ。順々に聞こうじゃねえか。え、なンだって?・・・フンフン、柿のほうは、うすッ皮一枚でさぶい?だから、栗の着てェるものを一枚貸せといった・・・うん。で、栗のほうは?エ、こりゃァ、先祖からのもらいもんだから、やれねえって?ウン、それに一枚でもぬぎゃァ、青白い肌してるからもたねえ?・・・ヘーエ、やれやれ、てめえたちゃァ、また、ぜいたくなケンカしてやがるなア」

柿、栗「どうしてだい?」
松「てめえたちゃナ、たとえ、薄皮一めえでも、着ているだけでもありがたく思わなきゃなんねえぜ」
柿、栗「そうかねェ・・・」
松「そうともサ。このおれを見ろ。この通り、身は松茸でありながら、フンドシもしてやしねえ・・・」




笑い話 艶笑落語 『二本指』 につづく


公開日:
最終更新日:2018/08/12


  •  制作者 seiwa
     年齢  じじ
     住処  埼玉県
     仕事  話し方教室講師
     

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