誤解

「おや、そこに行くのはジョセフ君じゃないか。どうしたんだ。蜂にでも刺されたのかね。まるで、二タ目と見られた顔じゃないぞ!」
「やあ、ジャックか、いやはや、どうも、ひどい目にあったところさ。トムのやつに殺されそこなったよ」
「ええっ?トムにだって?人ちがいじゃないのか?だって、トムときみとは無二の親友のはずじゃないか」
「うん、その無二の親友が仇(あだ)になったのさ」
「はて、それはまた、どうして?」
「うん、まあ、きいてくれ。じつは今日の午後、トムのうちへ遊びに行ったんだ。ところが、トムのやつ、外出していてね、細君がるす番さ。で、すぐ帰るもの、と思って、細君といろいろ世話話をして時間をつぶし、さて帰ろうと立ちあがったらね、ズボンの前のボタンが、ポロリとおちちゃったのさ」
「そんなことは、だれにもあるさ。でも、トムのうちでよかったね」
「うん、トムの細君も、そんなことをいってたっけ。うちでようございましたわね。よそでしたら、とんだ恥をおかきになるところでしたってね。だが、かえっていけなかったのさ」
「どうして?」
「細君、さっそく、すぐつけてあげましょう、といってね。ズボンをはいたまま、ボタンをつけるぐらいわけはありませんというんだ。そのままでいいのよ、とね。そうしてトムの細君が、手早くボタンをつけてくれたものさ」
「よかったじゃないか」
「しまいまできけよ。ボタンをぬいつけて、最後に糸を切らなくっちゃならない。細君、いつものくせで、その糸をハサミをつかわず、糸切り歯で切ろうとしたのさ。と、そのとき、とつぜん、トムのやつ帰ってきたんだ。・・・それで、おれは、こんな顔にされてしまったのさ」
「やあ、ジャックか、いやはや、どうも、ひどい目にあったところさ。トムのやつに殺されそこなったよ」
「ええっ?トムにだって?人ちがいじゃないのか?だって、トムときみとは無二の親友のはずじゃないか」
「うん、その無二の親友が仇(あだ)になったのさ」
「はて、それはまた、どうして?」
「うん、まあ、きいてくれ。じつは今日の午後、トムのうちへ遊びに行ったんだ。ところが、トムのやつ、外出していてね、細君がるす番さ。で、すぐ帰るもの、と思って、細君といろいろ世話話をして時間をつぶし、さて帰ろうと立ちあがったらね、ズボンの前のボタンが、ポロリとおちちゃったのさ」
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「そんなことは、だれにもあるさ。でも、トムのうちでよかったね」
「うん、トムの細君も、そんなことをいってたっけ。うちでようございましたわね。よそでしたら、とんだ恥をおかきになるところでしたってね。だが、かえっていけなかったのさ」
「どうして?」
「細君、さっそく、すぐつけてあげましょう、といってね。ズボンをはいたまま、ボタンをつけるぐらいわけはありませんというんだ。そのままでいいのよ、とね。そうしてトムの細君が、手早くボタンをつけてくれたものさ」

「よかったじゃないか」
「しまいまできけよ。ボタンをぬいつけて、最後に糸を切らなくっちゃならない。細君、いつものくせで、その糸をハサミをつかわず、糸切り歯で切ろうとしたのさ。と、そのとき、とつぜん、トムのやつ帰ってきたんだ。・・・それで、おれは、こんな顔にされてしまったのさ」
西洋風流小咄集 より
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公開日:
最終更新日:2018/08/12