道後の湯

道後の湯で源敏という好き者がたっぷりつかっているとき、一人の尼法師が入湯して来た。
上品でなまめかしい、抱きつきたいがそうはいかない。そこでこっそり足を伸ばして、股ぐらとおぼしいあたりをコチョコチョ、尼はびっくりして怒る。

「とても世を よそに古江のあま小舟 葦のさわりをなに厭うらん」と詠む。
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つまり遠浅の海で、海草とりをしている海女(尼)の舟が、入江の葦(足)に触れたからといって、別に気にすることはありますまい、という図々しい歌だ。
尼さんもさすが歌よみ、半分オツな気分になったのか、
「さらば早く 棹さし寄せよ世の海の 海松布(食用の海草)をなおも いとうあま舟」と返歌した。
つまり、あたしはもう男を絶った尼。人の見る目(海松布)が大変だから、誰も来ないうちに、棹を私の舟にさしてごらん、というのだから、これはどっちもどっち。
定本艶笑落語 小島貞二編より
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公開日:
最終更新日:2018/08/12